コースデビューを果たす!

法師温泉で命の洗濯をした女がいれば、アイアンを手にしひと月余りでコースデビューを果たした男もいる。ゴルフ熱にうかされたこの男、コースデビューにいたる間、粉骨砕身、週に2日、1日4時間の練習に励んだものだ。

さて、当日は3人の先輩諸氏に教えを乞いながらも、根っからの殿様気質は抜けず、キャディを独り占めにしたと聞く。なんでもこのゴルフの世界、ピンから一番遠いプレ−ヤーから順に打っていく決まりだそうで、ボールが落ちた場所まで速やかに移動しなければならない。この日、初心者である男が、その役を頂戴するのは至極当然の成り行きであったが、ゴルフ場から回されたキャディ氏にとってはとんだ災難のはじまりだった。

人身掌握の極意を知り尽くしていると豪語する男、早速、キャディ氏に近寄りニコリと笑みを浮かべ「僕は100パ〜セント初心者、1ヶ月前に生まれて初めてクラブを握ったンだ、よろしくお願いしますッ!」っと御情け頂戴の風。これでキャディ氏の心を動かしたかはさておき、コースではつきっきりで、指導するはめになったらしい。

さて、初心者にしてはまあまあというスコアもこの男にすれば不服であったようだが、いやいや、キャディ氏のアドヴァイスがなくては得られなかった数字だと言えよう。帰途には「僕はゴルフの何たるかが分かりかけたよ! 今年中に100をきるのだ!!」と宣言して、友人をあきれさせた。

これには、ゴルフの神様も付き合いきれないと思ったのか、肩甲骨辺りにキツーイお灸を据え、ゴルフ熱を下げにかかった。

イタイ、イタイと大変な騒ぎように「湯河原よりも熱海かな、日航亭に行ってみよう!」と、週末の1日、熱海に繰り出すことになった。熱海大湯日航亭は、二つの源泉を持つ歴史のある浴場である。しかし土曜だというのに、年代物の日航亭の屋内は、人気もなく深閑としている。おかげで湯舟を独り占めに楽しんだものだが。

さて、湯治の結果はといえば・・・ゴルフの神様はそう簡単に許してはくれないらしい。知人の薦める整体で治療を受けることになった。しかし、ゴルフ熱は下がることなくますます上昇、一人気勢を吐いている。

「8月の休暇は18ホールだッ! その前にハーフを2度、回るんだ! 一人でもやるぞ〜!」