鯉とアメンボ

11月26日、連れと紅葉も見頃の箱根へと向かう。いつもながらの無計画がたたり、予約でいっぱいのロマンスカーを見送って、10時発の新宿湘南ラインに乗り込む。

さて、鎌倉彫二段重箱にぎっしりと詰めた朝飯は、高松土産の練り物に厚焼き玉子、青物とお麩の二杯酢和え、吉兆風に細かく切った三つ葉を散らした鶏肉と舞茸、牛蒡の混ぜご飯と賑々しい。蓋を開ければ、ビールを片手にすでに宴会の気分である。

小田原から箱根登山鉄道へと乗り継いで、正午に箱根湯本に到着、以前訪れたステーキハウスのあるホテルへと向かった。

まずは温泉を堪能しさっぱりとして湯を出れば、ステーキハウスで遅い昼食となった。料理人がマジックのような手付きで大蒜スライスやヒレ肉を焼きあげていく。その手元を追いつつ、携えてきたぐい呑は桃山の斑唐津李朝初期の堅手盃、熱燗も美味い。

しかしながら今回の連れの一番の目的は、庭園の池に泳ぐ鯉の群れに餌をまくことである。料理人から、大きな鷺が鯉をひと飲みにすることもあると聞くや、連れの興奮は一気に高まった。

この日はアメンボも水面を飛び歩き、小学生にかえったようにその動きを見つめたかと思えば、鯉に餌をやっては、さながら彼らに君臨する王の如く語りかけたものである。

2016年5月30日箱根にて4 - 寿福千年録