魯山人「黄瀬戸角向」

izaatsuyoshi2008-04-13



駅構内を矢のように走る男を見た。階上のホームにはすでに電車が到着しており、急な階段を駆け上らなければならないのだった。

黄瀬戸角向付。自由闊達で剛直、潔癖な一姿である。黄瀬戸釉の濃淡に変化があり、見込、裾回りには黄瀬戸独特の海鼠釉の窯変が見られる。見所多く、茶懐石の器にピタリとはまるのが魯山人たる所以だ。

食文化の真髄を極め、器は料理の着物であるとし陶芸にも独自な才を示した北大路魯山人。恵まれない幼少時代を抜け出し、生来の才と強い意志で人生を切り開いた。住食の総合文化を目標に、その作品数は多作で知られるピカソを遥かに超える。美の巨人として名を馳せるまで、まさに疾走する日々であったことだろう。

一方、容易に生きる術を持たず、人間国宝の打診をもこばんだ。つねに理想を頭に描き、周囲、思うように運ばなければ怒声を張り上げたという。独尊の人魯山人が、孤独のうちに人生を終えたのは50年近くも前のことだ。しかし残された作品はいまだ燦然と輝き、多くの人々を魅了してやまない。

茨城県笠間市では、北大路魯山人荒川豊蔵の展覧会が、下記の二館で開催(4月19日−6月22日)される。美濃、そして桃山陶への共鳴が二つの展覧会の共通キーワードのようだ。この因縁浅からぬ二才人の競演に期待したい。

茨城県陶芸美術館 「人間国宝 荒川豊蔵 偶然か、宿命か−志野にロマンを追い求めて」
笠間日動美術館分館春風萬里荘北大路魯山人−志野、織部に見る才人の葛藤」