『フィンランドのくらしとデザイン ムーミンが住む森の生活』静岡市美術館

静岡駅前の松坂屋に大きく掲げられた看板から眼が離せなくなってしまった。

フィンランド」「くらし」「森の生活」のワードに誘われ、吸い寄せられるように静岡市美術館へと向かう。エントランスには、見慣れたテキスタイルが掲げられている。

展覧会構成

  • 《第1章》フィンランド・デザインの黎明〜森に育まれたナショナリズムと近代〜19世紀末
  • 《第2章》フィンランド・デザインの黄金時代〜森を糧とする豊かな生活とグッド・デザイン〜自然とともにあるくらし
  • 《第3章》フィンランド・デザインの《今》が示すこと〜森とともにある都市〜

最初の部屋では、ヴィクトル・ヴェステルホルム、アクセリ・ガレン=カレラ、ペッカ・ハロネン、エーロ・ヤルネフェルトらの雪景色をテーマにした作品が迎えてくれる。森、湖、そして雪・・・長い長い雪に閉ざされた冬、雪景色はフィンランドの風景画においてひとつのジャンルを形成しているようだ。

そして短い夏、人々は生命を謳歌する。

アンティ・フェヴェンの《夏至祭の踊り》。幅広い橋の上で、30人ほどの人々がダンスを楽しんでいる。大人から子どもまで・・・しかし背景に人家ひとつ見当たらない。ただただ大自然があるのみである。

それはまた私たちに、お馴染みの画家 ムンクの《生命のダンス》や《橋の上の少女たち》を思い起こさせる。ムンクの個性的な作品は、個人の心象風景のみにあらず、北欧の風土、そして絵画の流れのうえに成り立っていたのだ。

トーヴェ・ヤンソンの「ムーミン」の原画も展覧会に花を添える。このブースには絵本を読める小さな空間があり、小さな子どもたちでいっぱいだった。

そして森と湖畔の生活…

シベリウス夫妻の自邸、ハロネンの自宅兼アトリエなどの写真で見る、エリエル・サーリネンの建築やインテリア、ガレン=カレラらがデザインした家具が、彼らの心地よい暮らしを彩る。

また、イッタラの定番製品「ティーマ」や「カルティオ」などを生み出したデザイナー、カイ・フランクの陶器とガラス器は、その実用性と美しさを改めて感じさせた。

ムーミンが各展示室を案内するこの展覧会は、19世紀の絵画から現代の生活様式まで、盛り沢山である。展示の最後には最初に見た絵画の存在を忘れさせてしまうほどだ。

子どもから若い女性、年輩者まで集客しようとするあざといまでの意図を感じない訳ではない。主催者の並々ならぬ苦労を思い遣った。