『イエスの古文書』アーヴィング・ウォーレス

イエスの古文書〈上〉 (扶桑社ミステリー)

イエスの古文書〈上〉 (扶桑社ミステリー)


アメリカで本書が刊行されたのは1972年のこと、ベストセラーであったようだ。

作者のアーヴィングは1916年シカゴ生まれ。第二次世界大戦中は、空軍の映画班に勤務、戦後は映画のシナリオライターとなり、また綿密な取材で、小説家としても成功をおさめた。

本書は、2005年の『ダ・ヴィンチ・コード』のヒットをうけて、再販されたという。

聖職者、学者、出版業 ・・・信仰と巨大資本、それぞれが欲を潜ませ、新たな聖書刊行という目的にむかい邁進する。

主人公は、このプロジェクトの宣伝を依頼されたアメリカ人のランダル。彼の中にひそむシニシズムは家庭を崩壊させたが、仕事は順風満帆、美しい愛人もいる。

さて、新聖書の出版は秘密裏に進む。しかし嗅ぎつけた反対勢力の強い妨害工作に巻き込まれていく。渦中にあって次第に新聖書に疑いを抱くランダルは、ついに偽造の真実に到達する。

舞台はニューヨーク、アムステルダム、パリ、ローマ・・・『ダ・ヴィンチ・コード』同様、歴史ミステリーとして、読者の知的好奇心を十分に満足させる。

とはいえ残念なのは、ランダルの女性関係。39歳、バツイチ、ビジネスに成功した彼に、周囲の女たちは次々に魅惑的な体を投げ出してくる。またたびに群がるネコのようにだ。これって70年代アメリカの成功者の証? しかしストーリーの真実味は薄れ、娯楽小説に成り下がってしまう。

以下、カバーに記された紹介文。

エス実弟が記した福音書が発見された!それは、2000年におよぶキリスト教世界を根本から変える大事件だった。つぎつぎとくつがえされるイエス像。そして、"第二の復活"の驚くべき真相。一方、新たな聖書のプロジェクトを、卑劣な妨害工作が襲う。謎が謎を呼ぶ混沌のなか、ランダルは真実をもとめて、ひとり立つ・・・聖書学の該博な知識を投入し、息をもつかせぬ展開で世界的な超ベストセラーとなった歴史ミステリーの最高峰。