旬菜料理「立原」で、Mの誕生日を祝う。厨房とフロアを慌しく行き来する店主の立原氏も足をとめ、乾杯となった。盃は、このところお気に入りの黄瀬戸六角、刷毛目、斑唐津である。
今年還暦を迎えたという立原氏は、著名な小説家であった父の歳をいくつも越えてしまったと嘆いた。数年も前になるだろうか、父君が遺された三島扁壷の徳利で酒を注いでくれたことなどを懐かしく思い出した。その折は、青磁、古染角盃を携えていったのだと記憶する。
一品目の胡麻和えに「美味い」とMの声。続けざまに中瓶を2本空ける。続く白子の擂り流しは流石の味であり、このような逸品を茶懐石に出してみたいものだ。平目の昆布〆は、厚切りでふわっとした食感だが、一晩〆ているという。ほかの料理も、いつもながら、素材が十分生かされた優しい味であった。八寸の皿は、所蔵の古染の写しを伊万里で作らせたものだそうだ。
料理に舌鼓をうち酒を5合ほど楽しむうちに、最期の客となった。さて、Mへの誕生祝いは幅広のマフラーにした。和服にも合う、濃紺の細かい格子柄の柔らかい仕立てで、見るからに無頼のMの好みであり、大変気に入ってもらえたようである。
献立