美しい目 山路の行く手

izaatsuyoshi2010-05-05

鬱蒼と木立の茂る山路の行く手、何かが私たちを見ている。後方で啄木鳥が樹を叩く音・・・。

残雪歩きも心地よい、木崎湖畔登り口からの小熊山トレッキングは終盤にさしかかり、我々は黒沢高原へのルートをはずれ、猿ヶ城峰の分岐から海ノ口側に下ることにしたのだった。

その名の通り小熊山の登山道では、時折「熊に注意」の看板を目にした。熊よけの鈴を携帯していない我々は、ここまで大きな声で話を交わしながら降りて来たのだ。

どうやら海ノ口へのルートを行く人々はほとんどいないらしい。踏み跡が見当たらない。ここまで林道と登山道を行き来し壮大な北アルプスを眺め、のんびりとトレッキングを楽しんできたが、この先はそうも容易にいかないらしい。

厳冬期の雪で低木は山路に倒れこみ、大木は折れて行く手をふさいでいる。その昔、狼煙台であったという猿ヶ城址からの山路は急な斜面となり、道幅はますます狭くなった。猿ヶ城という名も頷ける。ここに登ってくる役目の人間は、猿のように機敏な兵士でなくてはならなかっただろう。

山路も少しゆるやかになった頃、行く手の倒木の陰に何かがいた。美しい目・・・まっすぐにこちらを見ている。

カモシカだ、若く雄々しい日本カモシカである。

連れと二人、ハッと息を呑み、目を交わした。「どうする・・・?」 カモシカをかわしルートを少々はずれて斜面を下りるか? 不可能だ、すべり落ちてしまうだろう。しばし様子を窺うが、カモシカはピクリともしない。

「行こう!」 連れが決断を下した。「近づけば逃げるだろう」

目をあわさないように歩をすすめる。すると突然、この野生の動物が動いた。思っていたよりもその身体は大きい。足元の枯葉がガサッとなる。次の瞬間、身を翻して斜面を駆け上がっていく。そして振り向きざまに静止し、再び我々の動向を窺っている。

カモシカや熊、そして啄木鳥、森に生きる動物たちのテリトリーに侵入した我々は彼らにとって脅威の存在であろう。この後、さらに1頭のカモシカに出逢ったが、やはりこちらをしばし見つめ、我々の視界から消えていった。しかし、1頭目と同様、森の侵入者が立ち去るまでどこかで見ているに違いなかった。


行程その他

  • 5月2日(PM11:54)新宿発ムーライト信州
  • 5月3日(AM05:11)信濃大町着、朝食後木崎湖登り口移動
  • (AM:08:00)木崎湖登り口→小熊山→パラグライダー離陸基地(休憩見学)→猿ヶ城峰→猿ヶ城址→風穴→海ノ口(駅にて休憩)
  • (PM:01:30)海ノ口信濃大町温泉郷移動→蕎麦屋(馬刺・タラの芽天麩羅・日本酒、焼酎蕎麦湯割)
  • (PM:04:00)くろよんロイヤルH着 夕食吉兆 
  • 5月4日(PM05:00)帰宅

猿ヶ城址
戦国時代、この地の豪族仁科氏は、小岩岳城(穂高町有明)、西山城(大町市常盤)、南城及び北城(大町市社館内)、三日市場城(白馬村三日市場)等の遠隔地への火急の通信用に狼煙台を設けた。かっては小さな郭や水の手もあったという。ここからは四ケ庄平(白馬村神城)などはるかに見晴らせる。