『貴婦人Aの蘇生』小川洋子 

貴婦人Aの蘇生 (朝日文庫)

貴婦人Aの蘇生 (朝日文庫)


『貴婦人Aの蘇生』再読。
剥製のコレクターであった夫を亡くした老女ユーリをめぐり、彼女と同居することになった〈私〉、〈私〉のボーイフレンド〈ニコ〉、そして剥製マニアの男〈オハラ〉が紡ぐ物語。

〈私〉の伯父は、40代半ばで工場の経営に乗り出し、その傍ら動物の剥製の収集をはじめた。この風変わりな伯父は51歳のとき、さらに周囲を驚かせる。69歳の亡命ロシア人ユーリと結婚したのだった。

結婚生活は10年と少し続き、伯父の死で幕を閉じる。その2ヵ月後〈私〉は父を亡くし、伯母の面倒をみるのを条件に、伯父の遺産から学費を出してもらうことになった。

かけがえのない人を失った伯母と〈私〉の共同生活は、伯父の遺した家「猛獣館」で始まった。伯母の日課は動物たちの毛を刈り込み、刺繍をすることであった。それは図案化されたAの文字を蔓バラが囲んでいるデザインだ。

〈私〉は頭文字であるらしいAの文字を刺繍する伯母の行為をいぶかるが、突然訪ねてきた剥製マニアの〈オハラ〉に、伯母は自分がロマノフ王朝の皇女アナスタシアであるかのような思い出を語りはじめる。

皇女アナスタシアとして蘇生する彼女を見守る〈私〉と〈ニコ〉、何かと伯母に近づいてくる〈オハラ〉は、極めて繊細な感情を絡ませながら、伯母の美しいブルーの瞳に踊らされるように、結末へと向かっていく。

大団円と言ってよいだろう。居心地の良さと居た堪れなさを同時に抱えた登場人物それぞれが、そして猛獣館の剥製たちさえも、落ち着くところに落ち着くのだから。

いつものように、カバーに記された紹介文を記そう。

北極グマの剥製に顔をつっこんで絶命した伯父。死んだ動物たちに刺繍をほどこす伯母。この謎の貴婦人はロマノフ王朝の最後の生き残りなのか?『博士の愛した数式』で新たな境地に到達した芥川賞作家が、失われた世界を硬質な文体で描く、とびきりクールな傑作長編小説。《解説・藤森照信


qonversations《インタビュー 鹿野護 ⇨ 小川洋子http://qonversations.net/kano_ogawa/3252