『私の男』桜庭一樹

自らの青年時代を顧み共感を覚えつつも、読み進むうちに相容れない感情が湧き上がってきた。私は近親相姦が受け入れられない人種なのである。

心も体も貪りあう悲しいほどに深い感情、それがたまたま父娘間に存在した。そうであったからこそ直木賞受賞作なのであり、人気俳優により映画化もされたのであろう。

旧約聖書』を紐解けば、イヴはアダムのあばら骨の一本から作られ、「ロトと娘たち」は子孫を残すために交わった。イヴはアダムの「女」であり、アダムはイヴの「男」である。そして父の娘は、また子をなす「女」であるのだ。

蛇に唆され禁断の実を食べてしまったアダムとイヴは楽園を追放され、その子孫は短い一生に一喜一憂を繰り返し、海山にそして市井に生きる。この小説の父と娘のように。
  
印象に残ったのは、父、淳悟。ダメで強くてこの上なく色っぽい。全身全霊で女子を守る永遠の「男」である。


私の男 (文春文庫)

私の男 (文春文庫)