味噌を仕込む

味噌樽


10年以上も前になろうか、母が麹屋の女主人と知り合ったことを機に、我が家の味噌作りが始まった。
1年目は女主人の丁寧な指導下に仕込みを終え、翌春には美味しい味噌を味わうことが出来た。この味噌に魅入られ、翌年からは家族総出で味噌を仕込むことになった。
翌春には多くの方にお分けすることができ、相手方から「美味しい」との言葉をもらえば、二重の喜びとなった。

我が家の味噌は倍麹と呼ばれる製法で、文字通り通例の倍の麹を入れる。また大豆に感謝を込め、ほんの少しの豆はつぶさず原型をとどめおくことにしている。

肝心の大豆と麹はそれぞれ名人と知られる方から大量に購入する。不味い味噌になるわけがない、いや美味い味噌にならなければ名人に申し訳が立たない。

さて、前日から水に浸しておいた大豆は、早朝から灰汁をとりながら炊きあげる。豆が湯の中で踊るよう大釜で炊くこの作業は、ふきこぼれないよう付きっ切りで行わなければならないが、火と水加減を調整しながら、変わっていく大豆の色を見るのは楽しい時間である。

「風が色を付ける」とは麹屋の女主人の美しい言葉。大豆の色を見つめながら、母がこれを語るのも毎年のことだ。

大豆が指でつぶれるほどの柔らかさになるまで4時間ほどだろうか。大豆は煮汁と分け、家庭用の餅つき機でつぶしていく。機械がなかった昔は大変な作業であったろう。

擂りつぶした大豆は、事前に合わせておいた麹と塩と良く混ぜ、大豆の煮汁は火にかけトロミが出るまで煮つめておく。このエキスが肝心、これを混ぜ込み、味噌玉を作る。大きさは巨大なおにぎりというところか。このあたりで腰と腕にだるさを覚えるのが常。

味噌玉を樽に投げ入れ、空気が入らないように押し入れていく。最後は表面を平らにならして塩を振りこむ。

布で表面を覆い、中蓋をし10キロほどの重しをのせ完了。味噌はこれから1年の熟成のときに入る。