水上勉

水上勉。昭和を象徴する作家の一人である。明治以降、薄幸の女性たちの生涯を描いて定評があった。

実家の本棚で見つけた2作を手に取る。母が読んだものか。

水上の代表作『はなれ瞽女おりん』も70年代の作品であろうが、下記2作のうちでは同じ頃に書かれた『弥陀の舞』が断然良い。

京都、宝仙院法堂建立にあたり、狩野芳崖門下によって完成された壁画「弥陀の舞」は、越前和紙職人により漉かれたかつてない大きさの一枚紙が使われる。

紙漉き女くみの秘められた出生の経緯が徐々に明かされ、「弥陀の舞」の完成披露、実母との邂逅とクライマックスまで一気に読ませる。

加えて興味深かったのは、岡倉天心の登場前の日本、欧化主義に押される日本画壇の雄、橋本雅邦、狩野芳崖らの困窮振りが具体的に書かれてあったということだ。また芳崖が大変な大蒜愛好者であったということは知らぬことであった。

『弥陀の舞』

弥陀の舞 (角川文庫)

弥陀の舞 (角川文庫)

『長い橋』上下

長い橋〈上〉 (新潮文庫)

長い橋〈上〉 (新潮文庫)