成り行きまかせの贅沢

izaatsuyoshi2011-05-09


翌朝6時前、誰もいない露天風呂に入る。昨夜からの雨は小降りとなっていたが、肩をたたくしずくが肌寒さを感じさせた。露天を出て屋内に戻ると、2,3の人たちが朝風呂を楽しんでいた。

ゆったりと湯船に浸かり昨日来の道程を振り返れば、こうして何もせず流れに任せる旅というのも悪くはない。露天で雨というのも風情があっていい。

朝食にはたっぷりと高原野菜を味わった。しかし、例年とはメニューが幾分異なっている。凝った料理、コストのかかる料理が消え、給仕の人数も少なくなった。ゴールデンウィーク中のこのホテルは例年のように満室と聞いているものの、震災直後は客も減って経費削減はいたしかたないのであろう。

朝食後、ホテル系列のパターゴルフ場をのぞく。すでに雨はあがっていたが、我々のほかには客はなく、曇り空の下、9ホールを連れと交互に打つことになった。

予想に反し、どのコースも恐ろしくボールが外れ、それでも二回目、今度こそ!と気を入れて回ったものの結果は散々。遊びとは言え、随分空しい想いをしたものだ。

さて、成り行きまかせの贅沢な時間に後ろ髪を引かれつつも、帰京しなければならない。連れは気にかかる案件を抱えており、頭の中は、幾分仕事モードに切り替わっているらしい。

信濃大町から2両編成の大糸線に1時間ほど揺られ、松本で入線中のあずさに乗り込む。駅中でビールと日本酒を買い込み、車内販売で、昨夏に食べて美味しかった塩尻、カワカミ社のサンドイッチと弁当を買うことにした。

車内販売のワゴンが来ると、待ちかねていた我々は係に矢継ぎ早に声をかけた。「おねえさん、そのサンドイッチと・・・」「同じ会社が作っているお弁当!そう、カワカミの・・・信州シャモの入ったお弁当があったでしょう?それをお願い!」

サンドイッチは、白とピンクの縞柄の包装紙が記憶に残っており、ワゴンの中段にすぐに見つけたが、あの弁当は見当たらなかった。

「サンドイッチと・・・シャモのお弁当ですか?すみません、そのお弁当は、ありませんね。でも、この鳥釜飯はカワカミ製です。いかがですか?」と勧められ、「じゃ、それ! それをください!」と勇んで購入した。どちらも最期の一つであった。

釜飯の容器はプラスチック製。味気ないとも思ったが、陶器より軽いので食べやすくはあった。中身は鳥の炊き込みごはんに鳥の唐揚、鳥そぼろ、うずら玉子、野沢菜漬油炒、栗寒露煮など。程よい薄味で好感が持てる。

連れはザックから織部の筒向を取り出した。ビールをそそぐと驚くほど泡が立った。アルコールで喉を潤しながら雲のかかった八ヶ岳中央アルプスを眺める。

そしていくつもの川を越え、ビルが林立する新宿に到着した。4時間という列車での移動は、山々をはるか遠くにおしやってしまう。いつものように少し寂しい想いを抱えてホームに降り立った。


「駅弁、しのぎをけずる!」2010年8月記
http://d.hatena.ne.jp/izaatsuyoshi/20100814/1281757044