厚く雲が垂れ込めた早朝、東京駅から新幹線に乗り込み岡山を目指した。
岡山県瀬戸内市内、小豆島を望む風光明媚な牛窓町は、洋画家佐竹徳が40年にわたり過ごした土地である。彼は最晩年、牛窓町に多くの作品を寄贈(現・瀬戸内市立美術館所蔵)した。
瀬戸内市立美術館ではこの日『佐竹徳と大倉道昌展』を開催中であった。奥の小部屋には佐竹その人の写真が展示されている。
大阪に生まれた佐竹は、1959年、オリーブ園で知られる牛窓町を訪れる。
セザンヌの崇拝者であった彼は、セザンヌの描いた風景と同じ赤土をこの地に見出し、後半生の大半を牛窓で過ごしたのだった。
丘の上のオリーブ園には「赤屋根」と呼ばれるアトリエに使用していた小さな建物が残り、そのテラスからは彼が愛した青い青い海が望めた。
最晩年まで、佐竹はカンヴァスを抱えて丘への道を辿り、オリーブ園を描き続ける。
その画風はピサロやシニャック、セザンヌ、またセガンチーニを想起させながら、日本特有の抒情に溢れ、画面は清澄な空気感に満たされている。(掲載画像「牛窓」笠間日動美術館蔵)
1991年、度重なる要請に根負けし、長年拒み続けた日本芸術院会員となり、1994年には大型本『佐竹徳画集』も刊行されるが、謙虚な人柄は変わらない。
1998年、100歳にて逝去。ただただ絵を描き続けた人生であった。
没後15年を経てなお、牛窓では佐竹の賛美者が少なくない。地位、名誉に興味を持たず、奢ることを知らない佐竹その人の記憶が、未だこの地の人々を惹きつけている。
美術館に託された作品群が、いよよ画家の記憶を牛窓に留めていくことだろう。
- 作者: 佐竹徳
- 出版社/メーカー: 日動出版部
- 発売日: 1994/01
- メディア: 大型本
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