佐竹徳(1897-1998)という画家

厚く雲が垂れ込めた早朝、東京駅から新幹線に乗り込み岡山を目指した。

岡山県瀬戸内市内、小豆島を望む風光明媚な牛窓町は、洋画家佐竹徳が40年にわたり過ごした土地である。彼は最晩年、牛窓町に多くの作品を寄贈(現・瀬戸内市立美術館所蔵)した。

瀬戸内市立美術館ではこの日『佐竹徳と大倉道昌展』を開催中であった。奥の小部屋には佐竹その人の写真が展示されている。

大阪に生まれた佐竹は、1959年、オリーブ園で知られる牛窓町を訪れる。

セザンヌの崇拝者であった彼は、セザンヌの描いた風景と同じ赤土をこの地に見出し、後半生の大半を牛窓で過ごしたのだった。

丘の上のオリーブ園には「赤屋根」と呼ばれるアトリエに使用していた小さな建物が残り、そのテラスからは彼が愛した青い青い海が望めた。

最晩年まで、佐竹はカンヴァスを抱えて丘への道を辿り、オリーブ園を描き続ける。

その画風はピサロシニャックセザンヌ、またセガンチーニを想起させながら、日本特有の抒情に溢れ、画面は清澄な空気感に満たされている。(掲載画像「牛窓笠間日動美術館蔵)

1991年、度重なる要請に根負けし、長年拒み続けた日本芸術院会員となり、1994年には大型本『佐竹徳画集』も刊行されるが、謙虚な人柄は変わらない。

1998年、100歳にて逝去。ただただ絵を描き続けた人生であった。

没後15年を経てなお、牛窓では佐竹の賛美者が少なくない。地位、名誉に興味を持たず、奢ることを知らない佐竹その人の記憶が、未だこの地の人々を惹きつけている。

美術館に託された作品群が、いよよ画家の記憶を牛窓に留めていくことだろう。


佐竹徳画集

佐竹徳画集