「福本章 二都物語 プロヴァンスからヴェネツィアまで」

イタリア文化会館にて「福本章 二都物語 ヴェネツィアの光展」(5月24日-6月22日)が開催中である。

福本章は1932年岡山に生まれ、芸大では林武教室に学んだ。1967年画家の登竜門「昭和会展」で昭和会賞を受賞し、同年ヨーロッパに渡っている。

以降、フランスをはじめヴェネツィア、ニューヨーク等で厳しい制作を続け、1997年に小山敬三賞、2007年に安田火災東郷青児美術館大賞を受賞した。

これら輝かしい経歴を残して福本が逝ったのは2011年のことである。



福本章 二都物語 プロヴァンスからヴェネツィアまで」は画業の顕彰をはかるため、近親者を中心に開かれたものだ。一歩会場に入り感じた温かさはそれ故であったろう。
取材地により作品は、日仏会館(「青の世界展」5月7日-30日)とイタリア文化会館に振り分けられたようだ。面白い試みである。


そして今夕(6月15日)、関連トークショー「イタリアオペラの快楽」が催された。

イタリア会館の1階ホールに集まったのは30名ほどだったろうか。皆、福本の作品を愛する人々であるのだろう。

講師は音楽ジャーナリストの池田卓夫氏、そして演出家の菊池裕美子氏。面白い話が聞けるにちがいない。

冒頭、DVDで「椿姫」の前奏曲の場面が映し出される。
なるほど「椿姫」の初演はヴェネツィアフェニーチェ劇場であり、今回のテーマにぴったりである。

講師の二人は時に辛口に、近年のオペラ事情を伝えてくれた。


トークの内容に、またある旋律にいくつかの思い出がよみがえってくる。

ジュゼッペ・ヴェルディ。彼は最晩年、引退した音楽家のための終の棲家カーサ・ヴェルディの設立に奔走したことでも知られている。この家を取材したダニエル・シュミットの映画「トスカの接吻」が公開された頃、私はまだオペラに不案内であった。しかしスクリーンに映る老いてなお朗々と歌い続ける歌手たちの声に大いに感動させられたものである。

そしてヴェルディと同年(1813)にライプツィヒに生まれ、ヴェネツィアで客死したリヒャルト・ワーグナー

映画「ベニスに死す」の主人公はワーグナーがモデル。原作はトーマス・マンの小説である。監督のルキノ・ヴィスコンティは、小説では作家であった主人公を、マンの本意にしたがい、映画では音楽家として登場させている。ダーク・ボガード演じる主人公が日ごとに身をやつし、ヴェネツィアの路地を徘徊する姿に胸を打たれたものだ。

またカヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲に、ヴェローナのアリーナで見た光景がまざまざと浮かんできた。佳境に入り、舞台中央に満月が昇ってきたのだった。興奮さめやらぬ宵であった。

しかしながらヴェルディワーグナー、音楽もさながらその生涯は、なんとドラマティックであったことか!
彼らの栄光を讃えて、福本描くカナルに反映する光がホールに満たされていくようであった。

ベニスに死す [DVD]

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