大丸温泉

深まりゆく秋に誘われ、久方ぶりに両親と妹と旅に出ることにした。向かうは紅葉の那須塩原。宿泊先を大丸温泉と決めたのは半月前のことだ。

大丸温泉旅館は標高1300メートルに位置する秘湯の一軒宿である。那須連山の景色を楽しみながら、旅館近くの駐車場までくねくねと蛇行する道を走った。快適なドライブであったが、その昔は辿り着くまでさぞや大変な道程であったろう。

建物は懐かしい造りの木造建築で、玄関には「日本秘湯を守る会」の提灯が掲げられている。宿の応対も頗る気持ちが良い。

さて、川の流れに沿ってある露天風呂はいくつかに区分けされており、一番上流は女性専用、その下は混浴であった。

上流の露天は野趣にあふれ、茂みの向うから野生の動物が現れそうな気がした。パラパラと雨が落ちているためか他の客に会うこともなく、川のせせらぎに寄り添えば清清しい開放感に満たされた。

翌早朝、障子を開けると眼下に雲海が広がっていた。前日は小雨降る中を車を走らせてきただけに、驚きも嬉しさもひとしおであった。

雲海は森林と接しており、高山から見る雲海とは趣きが違う。これもなかなかよいものであった。