土肥温泉(伊豆の旅1)

izaatsuyoshi2010-11-24


西伊豆の土肥だ、打ち合わせに行く。仕事はすぐに片付くさ、フェリーに乗るんだ、温泉だぞ!」 連れの誘いに、駿河湾から断崖の紅葉を見たくなり、同行することにしたのだった。

23日の朝、東京を出て熱海で乗り換え、沼津から高速船で土肥まで向かう。連れの打ち合わせの時間は午後4時。時間はたっぷりとある。日常を離れ、ゆっくりと旅情を楽しみたい。

沼津港では船の出立まで2時間待つことになり、地元で美味いと評判の寿司屋に入った。長いカウンターには5人の職人が並び、威勢のいい声を上げている。午前11時過ぎであったが、観光客と常連で店内は埋まりつつあった。

席に座ると、カウンターとネタのケースの間に水が流れ出ているのに驚いたものだ。寿司をつまんだ指を洗うためだという。昔からあるそうだが、お目にかかったのは初めてである。

まずはボイル烏賊をつまみに生ビールを空ける。身は弾力がありしかも柔らかい。ヒラメ、赤貝、鰹、生ゲソ、いくら等を楽しみながら日本酒を飲んでいると、いつのまにか1時間が過ぎている。シメサバ、トリ貝穴子、赤身を握ってもらい、店をあとにした。

停泊していた高速船に乗り込むとまもなく、すさまじいエンジン音が聞こえて、港はあっという間に遠くなった。だが、しばらくするとエンジン音も気にならなくなり、移りゆく景色を夢中で眺めた。

雲間からは時折、光が差し込んで、ヨンキントの絵さながらのドラマッテックな光景が広がった。晴れていれば富士を望めるそうだが、これはこれでなかなかの眺めである。デッキで風に吹かれながら、ヨットや漁船の往くのをみつめ、そして断崖の紅葉を愛でた。

船は途中、戸田に立ち寄り2,3の乗客を降ろすと停泊時間もそこそこに、土肥港に向かった。土肥の入り江に入ると船は次第に速度を下げた。港に立ち降りた数少ない船客が三々五々に散っていくと辺りは静まりかえって、波の音だけが聞こえてくる。人気のないこの街の暮らしは想像に難く、幾時代かをさかのぼり存在するように思えた。

それでも山の中腹には、時折、走行する車が見えた。三島までつながる道路があるのだ。山から眺める入り江もさぞや美しいことだろう。土肥は鈴木信太郎ら画家たちもスケッチに訪れた街だ。有名なホテルもあるにはあるが、通りには鄙びた温泉街の風情がある。

さて、旅館の屋上にある露天風呂に入る。土肥の湯はさらさらとして、癖がない。風は強く、山の木々はしなって風の歌うのが聞こえた。