『パットお嬢さん』 ルウシイ・モード・モンゴメリ

パットお嬢さん

パットお嬢さん


ご存知『赤毛のアン』の作者、モンゴメリの作品、少女時代に読んだ本である。

帰郷した折、懐かしい思いで手に取ったものだが、「銀の森」と呼ばれる屋敷に暮らす主人公パットに、当時にも増して惹きつけられた。

共感したのは、家屋敷に対するパットの深い愛である。それは偏執とも呼べるものだ。

私も同様に、明治末に建てられた実家の家や庭を愛し、手を入れながらいつまでも穏やかに暮らしていきたいと思っている。公園に隣接する東京の家も、今や愛しい場所となった。

パットのように庭の樹木を家族のように感じてもいる。代々使っている家具や食器を整え、汗水を垂らして庭の手入れをする。心地よい暮らしを守っていくための仕事は数限りなくあるのだ。

幸せを感じるのは、手入れを済ませた家を少し遠くから眺めること。そしてこの小さな幸せが永遠に続いていけば良いと思う。

さて、物語の終わり、パットはその生命にも等しい「銀の森」を失うが、真実の愛を手にして、家庭と家を再生しようとする未来が語られる。20代女性の揺れる心をリアルに描き、最後に結ばれる相手ヒラリーは幼なじみの建築家という符号。

『パットお嬢さん』にはパットの少女時代を描いた『銀の森のパット』があり、こちらは未読。ヒラリーと疎遠となる経緯もこの本にあるようだ。読みたい未読の本があることもまた、穏やかで小さな幸せのひとつと言えようか。