正午の茶事(稽古)

師の茶室にて: 1999(平成11)年10月24日

社中では、稽古の曜日ごとにグループを組み、亭主と客を代り番で茶事を学んだ。水屋には幾度も入り勉強させていただいたが、初めて亭主を経験したのは、1999年の秋も深まりゆく頃、師の茶室においてであった。

亭主経験豊富なSさんが初座を、同じくKさんが後座の濃茶と後炭をつとめ、初陣で怖いもの知らずの私が懐石と薄茶を担った。

かねて趣味は山歩きとうかがっていた社中の先輩Nさんを正客に迎え、趣向は「山の秋」とした。これに沿い道具組を決め、それぞれに道具を持ち寄った。そして私が招待状を、達筆のSさんが礼状を書くことになった。

一任された懐石は「山の恵み」を念頭に頭を悩ませたものだ。向うは鯛にトンブリと白木耳を添え、汁椀は葡萄の半身を粟麩に乗せた。一番の冒険は八寸である。海のもの、山のものとの約束を違え、山のもの二種を盛り付けた。調理も一番手がかかったが、気合いで乗り切れたのであろう。献立は次の通りである。

・向 う : 鯛昆布〆、白木耳、トンブリをかけて
・汁 椀 : 粟麩、葡萄
・煮物椀 : 鴨丸(牛蒡、味噌)、青菜、椎茸、柚子
・焼 物 : ホタテ貝柱菊花焼、筆生姜
・進 肴 : 菊花、シメジ、山ヒジキの三杯酢和え
・進 肴 : 穴子、京芋、小松菜の炊き合わせ
・箸 洗 : クコの実
・八 寸 : 鴨燻製 焼栗
・香の物 : 沢庵、秋茗荷甘酢漬

前日から道具や料理を背負い、師の家まで何度も往復した。稽古時間が異なるKさんとのコミュニケーションには苦労したが、終わっては「よくぞ一人であれだけの料理を」とねぎらいの言葉をいただいた。席中からは美味しいとの声も聞こえて安心していたが、後日、師から厳しく指導をいただいた。懐石の奥深さを身にしみて感じたものだ。

しかしこの折、茶事を組み立てる面白さを知った。空間全体を演出し、客をもてなしてみたいと分不相応に思ったのである。また水屋を手伝ってくださったSHさんと茶事に呼びあう友となれたことは幸せなことであった。

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中西良「断片」1998年 油彩、板

待合には小さな緑の抽象画を掛けた。ここを登山口に、本席では山を登るがごとく秋の深まりを感じて頂けるよう願った。