朝茶事 

実家にて

海外に旅立つ若い人へはなむけの茶事。正客は妹と社中を同じくする19歳の女性、次客はその母、詰めは社中の先輩と聞く。亭主は妹、半東は妹の主人が務め、当方はいつものごとく懐石を担う。

医学を志し、ハンガリーの大学に留学するという正客は、いずれは国境なき医師団での活動を目指しているそうだ。その旅立ちを知った妹から電話があり、10日ほどののちに朝茶事で送り出したい、懐石道具、料理は一任したいという。

1週間前の土曜に帰郷して妹の話を聞きながら、年若い正客の晴れやかな門出を祝い、赤を基調に道具を組んでみた。

コロナ禍にあり飯器の持ち出し、取り回しなしの簡略な献立だが、汁椀の替は有り。また初めての茶事にのぞむ彼女に、可能なかぎり正式な茶事の流れを体験してもらいたいと、ノンアルコール(車での来訪のため)の白ワインを用意し、燗鍋と朱盃を持ち出すことになった。

朝4時頃、今年はじめてのカナカナの声を聴く。天気は上々、5時を少々まわった頃、3名の客が到着した。

亭主、蹲に水を張り迎付に向かう。

主客挨拶、そして初炭も終わり、5時45分頃、懐石を持ち出す。


献立

  • 向 う:鰻の山椒煮・胡瓜の二杯酢和え
  • 飯 椀:蟹と生姜の炊込みご飯
  • 汁 椀:冬瓜・オクラ 替:南瓜 合わせ味噌仕立て 
  • 煮物椀:海老と枝豆の水晶寄せ 吸い口 冥加
  • 進 肴:帆立貝柱、焼茄子、椎茸、ズッキーニの辛子味噌かけ



向うは当初の予定に変え、胴に赤を基調とした模様のある「古伊万里写し」(八田円斎造)とした。進肴には土ものの器も考えたが結局、涼やかな古染付を使う。詰めは古美術がお好きな男性で、円斎、古染の器を喜んでいただいたようだ。


海老と枝豆の水晶寄せは冷たくして。細かく切った胡瓜、焼き椎茸も加えた。


懐石の画像は茶事を終えて亭主と半東に出したもので、妹が撮影してくれた。

確認すると、無事に終えた安堵感からか、汁椀の溶き辛子を忘れてしまっている。出汁をはった水晶寄せは運び出す際につるんと横にずれたか、また山高に盛り付けた吸い口の冥加も滑り落ちている。

客の汁椀の溶き辛子はまちがいなく垂らしたが、煮物椀はそのように崩れてしまっていたかもしれない。出汁をはった水晶寄せは椀の中でつるりつるりと泳ぐのであろう。厨房から送り出した時点とは異なる姿に改善点を見出したものだ。

さて寄付き、本席の道具は妹夫妻の所有のため、ここでの紹介は控えるが、花はその朝開いた木槿に鷹ノ葉芒、若い人に相応しい道具組であった。

久しぶりの茶事に、銅鑼の音も懐かしく聞いたものである。