墨宝 常盤山文庫名品展

izaatsuyoshi2011-01-30


根津美術館が華々しくリニューアルオープンしたのは2009年秋のことだ。美術番組や専門誌でも大きく取り上げられ、その喧騒が落ち着いてから訪ねようと思っていたのだが、いつのまにか1年以上が経ってしまっていた。

しかし、ままならないものである。本日は庭園の茶室で表千家の茶会が催されており、美術館内も和服姿の女性で大いに賑やかであった。

話題となった隈研吾の建築に興味があった。コレクションはすっかり建物に溶け込んでしまったかのように、違和感を感じさせなかった。茶室が点在する庭園とのつながりも自然であった。

根津美術館が誇る殷周銅器の展示室や竹に仕切られたエントランス(画像掲載)は、リニューアルオープン当初、メディアに大きく取り上げられたものだが、何よりこの建物の一番の成功は庭園との融合だと感じた。

特別展は「墨宝 常盤山文庫名品展」。13世紀半ばから盛んとなった日中間の交易、禅僧の往来などによりもたらされた墨蹟や水墨画、加えてその影響を受け日本で制作された作品など50点余り。名品揃いのコレクションは表装も贅をこらしており、見ごたえがあった。

国宝を含む質の高い常盤山文庫のコレクションは、大分前に一度観たことがあった。しかし興味深いのは、このコレクションを築きあげた菅原通済その人だ。城山三郎の小説『乗取り』の登場人物、篠原明秋のモデルともなった。リーフレットには実業界の粋人と紹介されているが、いくつもの顔を持つ稀代の人物といえるだろう。

2階の展示室では「鍋島と四季の花」「初春を祝う茶」が同時開催されていた。残念ながら我々は生来、鍋島には興味がなく、また「初春を祝う茶」は所蔵品による初釜の道具組で、見慣れたものであり、足早に見るにとどまった。

庭園を少しばかり散策して美術館を出、青山界隈を歩く。日曜は古美術商も休みが多い。しかし幸いにも連れのなじみの店が開いていた。ここの主人には数年前に美しい仏像の手を見せてもらったことがある。

その手は等身大の女の手の大きさで、仏像彫刻を超えた観念的な美にほかならなかった。蓮の花のひとひらと見紛うばかりに美しく静かに存在した。

根津美術館 http://www.nezu-muse.or.jp