箱根にて

久し振りに連れと日帰り旅に出た。行き先は箱根、これがあいも変わらずの珍道中。それではこぼれ話を少々。

早朝から連れは仕事があり、新宿で待ち合わせとなった。さて9時40分発のロマンスカーの出発までは10分ちょっと、私は席を目指すも、連れはホームを反対方向に駆け出し、数分ののち日本酒とビール、チュウハイ、つまみの入ったビニール袋をカチャカチャと鳴らしながら着席した。息を切らせてビールを差し出す連れに、「朝からアルコールは飲まないから!」と煙幕をはったが、それをものともせずに連れはプシュッとプルトップを引いた。そして一言。「へェー、誰もいないじゃん!」見渡せば、この車両に乗っているのは私たちだけなのだった。週末のロマンスカー、不思議なこともあるものだ。

こうなれば連れの一人舞台。町田を過ぎたあたりから、連れのテンションはあがりっぱなし、絶好調の極みに達している。靴を脱ぎ、足を投げだし、つまらないことに高笑いを繰り返した。途中、僅かながら客も乗り込み、こちらは連れの傍若無人ぶりに小さくなるばかりだ。

箱根に到着するとすぐさま以前訪れた宿に向かった。ここの源泉は箱根随一と噂にのぼる効用があり、30分後、それぞれ男湯、女湯から出てきた私たちは赤く顔をほてらせていたものだ。加えてロマンスカーでアルコールに身をまかせていたせいか、連れはフラフラの態。

川風に吹かれながら歩いていると、ある大きなホテルの前に、昼食付き入浴の看板が出ている。温泉はもう結構だが、お腹がすいた私たちは中へと吸い込まれる。カウンターで尋ねると「ステーキハウスはお待ちになると思いますが、お入りになれますよ」

早速レストランを訪れると、待ち時間は1時間半だと言う。「その間、庭の散策に行かれては?」との勧め。ここは岩崎家二代当主の屋敷あとでなかなかの庭園が広がっている。

連れは「前から見たかったんだあ!」なんぞとうそぶき、庭園に入れば池の畔に座して、鯉の餌やりにご忠心。対岸に餌を撒く人があれば、負けじと連れも餌をやる。仕舞にはこの池に住む大半の鯉が連れの前に集まった感。「あいつらすごい、早いなあ! 背鰭をはためかせてさあ、カッコいいよ!」こちらは連れに「子供か?!」と突っ込みを入れるが、聞く耳は持たないらしい。

頃合いとなり、いざステーキハウスへ。席につくと私たちの前に若い女性スタッフが立ち「よろしくお願いします」と言う。今回、彼女が担当であるようだ。隣席には中年の男性スタッフが付いている。

両人それぞれ、大蒜スライスや肉の焼き方、塩の振り方が微妙に違う。連れは食い入るように二人の手先を見つめたものだ。

店を出て連れが「女性の方はせっかちで、隣の男性は丁寧であり、あちらの肉のほうが美味かったに違いない!」と言う。稀代のせっかちが何を申すか!と突っ込みたくもなったが、いやいや、そういうこともあるだろう。しかし、焼き方はどうあれ美味い肉であった。満足して帰途についた。