箱根をどり Ⅱ

箱根湯本見番にて

見番に到着したのは、開場の10時を10分ほど回った頃であったか。受付をすませ、会場に入るとすでに多くの人で賑わっていた。マスク姿であるものの談笑を交わす客席の様子は、舞台への期待があふれているようであった。

受付順にチケットにはナンバーが打たれ、席が決められる。我々の席はちょうど中程、前方にはお早い到着であったのか、粋筋のお姐さんたちの姿も見える。

幕前に挨拶があり、4つの演目が紹介される。

最初の演目は長唄「鶯梅宿」。鶯を騙って梅の木に宿をとる烏、梅と鶯の滑稽な一夜の出来事。


続いて俚奏楽「雪の山中」。
胡弓の音色とともに、端正な横顔を見せて真璃お姐さんが舞台中央にゆっくりと歩む。

「お真璃だ!お真璃だよ!」と連れが私の膝を叩く。

どのアングルから見ても美しい佇まい、情緒あふれる舞いに、知らず知らず涙があふれる。

これは「山中節」の旋律を取り込み、三味線の「俚奏楽」として発表された演目だという。
胡弓の奏者はすべての演目に出ている裕美子お姐さん。しんしんと降る雪を胡弓の音色が演出。


次は端唄集「江戸風情」。
「箱根路に」を開口に、「助六」「吉三節分」と江戸情緒あふれる端唄での舞い踊り。
芸妓も登場して華やかさを添える。

普段の姿からは想像できない白塗りながら、連れは梨んさんを見つけると「梨んは? あっ、あの芸妓だ。なかなかじゃないか!」 

何故か「お梨ん」とは呼ばない連れ。名前に「お」をつけるのは敬意の現れなのか? それなら「さん」付けに...と言いたいところであるが、まあどうでもよい。舞台に集中しよう。

さほど大きな会場でないのがいい。お座敷にいるような臨場感が味わえる。

画像の左端が梨んさん。

茶々お姐さんが前割れのカツラ(男役)で登場。ここでも連れ、「おっ!お茶々だ。お茶々だよ!」と破顔する。

茶々お姐さんの踊り、その目線に吸い込まれる。

だが先回の「ふらっと芸者」で拝見した際より、元気がないようにも見え、牽引する立場であろう苦労も偲ばれた。気付けば一度観ただけで、御贔屓筋のように心配している自分に、これでは連れとかわらないと苦笑する。

そして鼓を二つ抱えての鳴り物も…舞台中央にて。体幹を鍛えていらっしゃるのだろう。真面目なお人柄がうかがえる。


そして迎えた大団円!賑やかに賑やかに惣をどり「湯本おくり」。

今回の出演者は立ち方16名、地方14名の計30名、いずれも稽古を欠かさない熱心な面々と聞く。プログラムには、指導講師5名、スタッフ2名6社が名を連ねる。客席は70名、1時間ほどの公演であった。

我々には見えない苦労も多くあったろう。また来年の開催を心から願った。