春雷 立原にて

izaatsuyoshi2009-04-01


立原にて春を食す。

連れは予約の時間より20分ほど早く到着し、店の主人立原氏と昔話に花を咲かせていたようだ。

今夜の客は我々だけあり、立原氏との話もはずんだ。恵比寿の店を閉めてから早や10年になるという。当時、この店の閉店を知らなかった我々は、予約しようにも電話が通じず大いに嘆いたものだ。

恵比寿の店で、立原氏の書を譲り受けたことがあった。「花」と一文字書かれていたが、その文字は飄々として、風に吹かれて咲く野の花を思わせた。近年、茶杓を削っておられるとのこと。手に取った茶杓は、なかなかの出来である。

父上が讃えた料理人の仕事振りや過日の茶事についてなど、和やかに会話は続いた。いつものようにビール、日本酒と飲みつぎながら、料理に舌鼓をうつ。八寸の一品、茹でたのびるは辛味が抜けている。これなら春の茶懐石に使ってもいい。

静かに、穏やかに時は過ぎた。食事を終え、持ち込んだ古唐津、黄瀬戸の石盃を仕舞うと、突然雷鳴がとどろいた。春もいよいよ本番である。勘定を済ませ、窓から通りを覗けば、雨脚が大分強い。立原氏の気遣いを背に店をあとにした。

献立

  • 口取  ホタテ貝柱、葱、キウイの和えもの
  • 汁   アナゴ豆腐 白味噌仕立て
  • 向附  平目昆布〆
  • 煮物  根菜炊き合わせ
  • 凌ぎ  チラシ寿司
  • 焼物  鴨すり身の筍皮包み蒸し(ナス・パプリカ)
  • 八寸  蛍烏賊・小鯛酢漬け・にしん・蛸・あまご・タラの芽・のびる・京人参・蕪・ふきのとう
  • 進肴  筍・若布・蕗の炊き合わせ
  • 飯   出汁茶漬け
  • 水菓子 山葵のアイスクリーム
  • 菓子  あずき

旬菜料理「立原」 http://www.niki-restaurant.com/tachihara/