美味い店 八ツ花

「八ツ花の天麩羅が食べたいなあ」と、連れの口から時折こぼれる言葉。美味いものに舌鼓を打ちたいのは、こちらも同様。この店の天麩羅はかりっと揚がり、素材そのものを味わえる。

暑さも一段落の夕刻7時過ぎ、日本橋八ツ花ののれんをくぐる。連れはすでにカウンターで、サッポロ大瓶を小脇に主人や、仲居さん三人組と軽口をかわしている。

さてと私も仲間に入って、ビールを相伴。先付けは烏賊の塩辛だ。続いて、カレイの刺身が出る。ここの刺身は、旬の逸品を揃えて、いつ来てもうならせる。ビール大瓶2本を空け、さてさて、どこの酒からいただこう。八海山吟醸をてはじめに、高清水へとまいろうか。今宵、持ち込んだ石盃は斑唐津、刷毛目である。

天麩羅はさい巻き、蓮根、三つ葉、子持ち蝦蛄…ねっとりとした身が美味い。さくっとあがった穴子、キス、そして上級海苔に包まれた小柱も逸品。

さて、ここの主人、客あしらいも上手い職人気質。酒好きで、時折仲居に酒を請うが、「旦那さん、今日はこれだけにしてくださいねえ」と毎回、釘をさされている。「でもね、新しくいれた酒は飲んでみないとお客さんにお勧めできないんだよ」 いやいや、ごもっとも。

仲居たちも皆、長年勤めるベテランばかり、それぞれ個性的で客を楽しませる存在だ。年嵩の仲居は、昔はさぞかしグラマラナスな美人であったろう。連れがのれんをくぐると、「Iさんが来た、来た」と腰を振りながらハワイアンダンスよろしく、歓迎してくれたそうである。

最期は〆張り鶴。烏賊の天麩羅をサービスでいただき、かき揚は茶漬けにしてもらった。赤だしは浅利、新鮮な身はぷりぷりとして身離れがいい。おなかいっぱい、フルーツの皿もたいらげて、勘定となる。いつもながらの心尽くしのもてなしに感謝、料理を満喫して、小雨振るなかを帰路についた。