月夜に歩く

実家にて

昨晩は十五夜であった。夕刻、縁側にススキを生け、白玉粉で作った団子と選りすぐりの大きな栗の実を供える。

照明を消し障子越しの月明りを楽しんでいると、次第に目が慣れて部屋の隅々まで見えてきた。

障子を開け、ガラス戸の向こうを眺める。庭にはあらゆるものが影をおとしていた。こどもの頃、月明りで従姉妹たちと影ふみをして遊んだことなどが思い出された。

父と庭に出る。月明かり煌々、蔵の屋根は照らされて白々と輝いている。「すごいな…」と傍らで父が言う。

スマホで私が撮影している間に、父は「お先に」と家に戻っていった。

月明かりの中を一人歩く。

木々が色濃く落とす影、仄白く光る庭石など昼とは異なる情景に、突然、怖さがこみあげてきた。早足で家まで戻り、内玄関の鍵をしっかりと閉めながら、「いい年をしてまったく…」と自嘲する。

夜半、月は家の正面へと移動し、窓から差し込む光はますます明るくなったようであった。頭の中で百鬼夜行の文字が躍る。

翌朝、団子にきな粉をまぶしていただく。「十五夜お月さん、みたいね!」と昨夜、庭に出なかった母が歌うように言った。

栗の実は茹でて、数粒ほど東京に持ち帰った。連れは大きな栗の実だと言いながら、ひと口でほおばった。