朝茶事

izaatsuyoshi2008-07-15



多忙にまぎれ、このところ茶事から遠ざかっているが、こうも暑い日が続くと、午前5時のひんやりとした空気の中で始められる朝茶事が恋しくなる。仮想の朝茶事でも記してみようか。

蜩が鳴きはじめる午前4時のうすもやの中、亭主は路地に打ち水をする。徹夜で道具を検め、懐石を準備、炭をおこして客を迎える亭主だが、心地よい緊張でその胸は高なっていよう。

客は、あちこちから聞こえるカナカナの声のもと、集い来ることだろう。寄付では、汲みたての冷たい井戸水を供しよう。掛物は小幅の和歌が良い。まだまだ薄暗い寄付席の煙草盆に青竹は清々しく、火入れには炭が一点赤く燃えていることだろう。客は路地に出、清められた蹲で俗塵を落とす。正客から順に本席へ。

床にはさらりと山水画賛、探幽瀧之図が涼やかだ。水飛沫の音が聞こえて来はしないだろうか。風炉灰型も遠山に整えられている。小さめのギヤマンを水指に見立て、蓮の葉蓋も一興。葉には清らかな水滴が光る。

亭主と客は挨拶を交わし、さて本番である。正客は現代美術に鋭い切り口で迫る老評論家。次客は自他とも認める変わり者の数寄者、詰は道具屋の主といこうか。

朝茶事は初炭からはじまるのが習い。さてさて亭主、この癖ある客を満足させることが出来るか否か、いざ勝負である。