蔵の中で眠り続けていた古信楽の種壷を花入れとし、連れを正客に迎えて一客一亭の茶事を開く。
しかしこの壷のおおらかさを前に、花がなかなか定まらない。落としを代えてみたり、開いた椿をいくつか入れてみたりして、ようやく自然な形に落ち着いた。
席入りは12時半、少々余裕もあり、柳緑地に網目文の小紋に恩師に譲り受けた唐獅子牡丹文様の帯を締めてみた。ところが席入りをしてまもなく連れがブツブツと言い始めた。「帯は時代を経て金襴も渋く色も落ち着いている、しかしその派手な着物はおまえにはどうだろうか? しかも帯留も帯揚も若草色なんて・・・」確かに地味好みの連れの不評は免れまい。
本日は、折からの寒波の到来に「君がため 春の野に出でて 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ」の思いで準備をしたものだが、連れに装いの意味を解くのも野暮と言うもの、まあ、良しとしよう。
さて、向うは今週も平目がなく鯛の昆布〆となった。添えは、2日前にY先生に御馳走になった料理屋で頂いた雪輪大根に挑戦。飯は連れの好物の牡蠣飯にした。みじん切りにした生姜とともに牡蠣が縮まぬようほどほどに煮て、炊きあがった飯に合わせた。連れは飯椀の蓋を開けると牡蠣の生々しい?姿にビックリしたと言いながら、パックリと頬張りニヤニヤ。牡蠣好きもここに極まれりという面持ちである。煮物椀は蕪の鋳込みとしたが残念ながら薄味であったようだ。詰めが甘いと言うことだろう。焼物は一口大の牛フィレ、グリルであぶって脂を落とし、さらに鉢を脂で痛めぬよう笹を敷いた。こちらはなかなかの好評であった。
肝心要の点前はと言えば、教本を手にした連れに教えを乞いながら、相も変わらず覚束ない。茶友たちを招くのは大分先のようである。
寄付
本席
- 釜 雲竜釜 江戸初期
- 籠 茶縒籠 江戸時代
- 香 合 南京山水 明末
懐石
- 向 う(八田円斎 古伊万里写し)鯛昆布〆、雪輪大根、山葵
- 朱 盃 村瀬治兵衛 うすうす盃
- 石 盃(斑唐津 黄瀬戸平盃 桃山時代)
- 飯 椀(真塗)牡蠣炊込み飯
- 汁 椀(真塗)大根、溶き辛子
- 煮物椀(不老萬年蒔絵黒煮物椀)蕪の鋳込み、青菜、シメジ、松葉柚子
- 焼 物(信楽平鉢) 牛フィレ焼、溶き辛子
- 進 肴(福禄鉢 永楽即善造)独活、シメジ、春菊の三杯酢和え
- 八 寸(古染付漢詩文皿 明時代) 海老焼 蕪菜一夜漬け
- 菓 子 爾比久良(にいくら:大吾製 新座市)
濃茶
薄茶
- 棗 平棗 富貴花高蒔絵
- 茶 碗 黒楽茶碗 9代了入造
- 菓子器 染付平皿 李朝時代
- 菓 子 アーモンドヌガー(スペイン土産)