神田須田町 いせ源にて
師走恒例、アンコウ鍋の名店「いせ源」に赴く。
10年前ほどは花街の匂いを残す大ベテランの仲居が多かったが、コロナ禍のせいもあるのか、今では大方が若手に変わっている。連れは、私に仲居を呼ばせては注文を重ねた。
「まず瓶ビール、グラスは2つ。肝刺し、煮こごり、唐揚げをよろしくね」
「御通しはナバナのオヒタシでございます」と若い仲居がビールを運びながら説明をすると、連れは「えっ、ナボナのお菓子?」とつまらないジョークを飛ばした。ナバナのオヒタシの正体は法蓮草、シメジ、菊花の出汁びたしである。
連れは黄瀬戸六角盃と青磁平盃を携えてきた。肝刺しを口にすると「これは日本酒だな」と言いながらすかさず仲居を呼び止め「盃は要らないよ、あるからね」と続けた。唐揚げも届き、良い気分で盃を交わす。
女将は席を回りながら、頃合いよく鍋に火を付けて回っているようだ。
卓には店のゴム印を押した紙袋のマスク入れが置かれていた。それではアンコウにカンパイしよう!美味しかった、ありがとう!
今年も無事に歳を越せる。感謝である。