早朝から料理の腕をふるい、鎌倉彫の重箱にあれやこれやと詰め込む。弁当を携え、残雪の箱根に向かうことにしたのだ。良い天気である。
ロマンスカーに乗りこむと、連れはビールを片手に、早速重箱の蓋を開けた。
飯は、言わずもがなの連れの好物、牡蠣の炊き込みご飯。散らした三つ葉の緑も鮮やかで、香りも良い。ホウレン草の胡麻和えには隠し味に酢を少々、これが連れの好みなのだ。
『おまえ、朝から良く頑張ったね』とお褒めの言葉を頂戴する。俗にいう褒められて育つタイプって、連れは私をよく知っているのだ。
加えてワケギ入り出汁巻き卵、厚切りロースハムには、ほどよい焦げ目をつけてみた。
重箱は鎌倉彫の二段重、文字どおり鎌倉の古美術商で購入したものだが、結構な大きさがあり、今まで使う機会があまりなかった。本日が弁当としての使い初めとなる。
そうこうするうちに、先日の雪で薄っすら化粧を施した丹沢山系が見え出した。一昨年より山から離れてしまった私に『丹沢あたりから又始めてみようよ』と連れがいう。青空のもと、アイゼンを装着して雪を踏みしめれば心地よいに相違ない。
富士の高嶺は白く輝き、眩しいほどだ。車中に外人客が多いのもうなづける。
箱根湯本で登山鉄道に乗り換える。庭園からの眺望に期待し、箱根美術館へと向かう。高度が上がれば、箱根の山々も雪を被り、さぞや綺麗なことだろう。
立ったまま満員の車内で40分ほど揺られることとなったが、連れは車内の人間観察にも飽きて、眠くなってきたらしい。こんなところは子どもと変わらない。
さて、箱根美術館。春秋は入館者も多いが、厳冬期は閑散としている。鼠志野、黄瀬戸の向付けは逸品。しかし、いく度も来ていると見飽きたものも多く、新鮮味がない。
庭園を散策するも対面の山々に雪は少なく、期待ほどの景色は望めなかった。しかし、この美術館、展示品といい、最初に訪れた感激は一体どこに消えてしまったのか。頑張って欲しいものだ。
早々に湯本に戻り、湯を浴びて帰途についた。