茶の湯

続・一客一亭の茶事

蔵の中で眠り続けていた古信楽の種壷を花入れとし、連れを正客に迎えて一客一亭の茶事を開く。しかしこの壷のおおらかさを前に、花がなかなか定まらない。落としを代えてみたり、開いた椿をいくつか入れてみたりして、ようやく自然な形に落ち着いた。席入り…

一客一亭の茶事

茶の湯の稽古を辞してから10年余りが経った。今や、和服の着付けは多分に時間がかかり、正座をすれば足がしびれ、点前となれば足がふらつく・・・ここに至っては、自覚も新たに自主錬を開始。何故ならやがて訪れる老後の楽しみのひとつは茶事であるのだから…

第2次和服ブーム

毎々、和服に身を包み、茶の湯の稽古に通っていたのは10年以上も昔のことだ。あれほど和服に親しんでいた時代もあったのかと、往時を懐かしく思うこの頃である。しかしながら一昨年、かつての社中の友人の茶事に招かれて以来、徐々にであるが和服を着る機会…

山上の茶事(六)

転んで福? 鎌倉の数寄者、居合仲間を招いての新春恒例の茶事、本年も水屋に侍ることとなった。客は10名以内と聞いていたが、それを超えての大人数となり、各々が持参した大量のアルコールが水屋の一隅を飾った。一方、昨年は出しきれないほどあった客の持ち…

七夕飾り

小糠雨が降り続くなか、7月になった。庭の笹竹を切り、七夕飾りを作る。昨夜求めた和菓子屋の包装紙を短冊に切り、「織り姫」「彦星」「天の川」と定番の文字を書く。花入はおしゃべり口の茶碗ならぬ籠。 連れの短冊には「ごるふ 煩悩切り」の文字が踊る。こ…

『雨柳堂夢咄』 波津彬子 文庫版1-8巻(ソノラマコミック文庫)

茶友推薦のコミック。20年にわたり書き続けられているという骨董にまつわる奇譚集である。確かに何かが棲んでいるような茶碗には幾度か出会ったことがある。茶を啜ればこちらが茶碗の中に吸い込まれそうな・・・雨柳堂夢咄 文庫版 コミック 1-8巻セット (ソ…

花を分ける

4月にはいると、実家の庭では樹木の移植が本格的に始まる。冬の間、父は庭を眺め剪定をしながら、あれはそちらに、これはあそこにと終わりのない構想を練っているらしい。今年一番の大仕事は東南の袖垣を撤去し、大きな皐月二株を移植することであった。な…

花見の茶事

実家にて4月5日、桜を追っての茶事は実妹が亭主を務め、客は茶友のご婦人方。桜尽くしの道具組は綺麗綺麗の趣きである。水屋は亭主の夫君が担い、当方はいつものごとく懐石を請け負った。床飾りは百人一首から花に寄せた歌を選び、札を盆に並べた。こうして…

睦月の道楽

2015年1月も終わる。中旬には風邪をひき、家でネットの無料映画を何本か見てすごした。普段見ることもないジョージ・クルーニーの主演作『ラストターゲット』であったり、アメリカの青春もの『シンデレラ・ストーリー』であったり、FBI捜査官のコメディー『…

山上の茶事(五)

正月 祝いの膳 鎌倉の数寄者、居合仲間を招いての正月の茶事。客は7名、それぞれ持ち寄る料理や食材もあると聞き、当方の用意は御節と雑煮で良いとのこと。それだけなら手慣れたものと、軽い気持ちで引き受けた。席入りは11時半。亭主はまず酒盃と向う代わり…

盆略点前

先日の茶事の返礼に茶友を昼食に招いた。天気もすこぶる良い。献立 前菜:柿に生ハムを巻いて ジャガイモのポタージュ 林檎・オリーブのパン(フラントイオガランティーノオリーブオイルを添えて) フロマジェダフィノワ ナチュラルチーズ 鳥挽肉と胡桃、ベビ…

心づくしの茶事

招かねば招かれなくなるのが茶事というもの。私が茶事に熱中していたのは10年も前のことである。ある時から憑き物が落ちたようにやめてしまった。以来、2年余り前にお世話になった方(四名)を招き、簡略な茶事を開いたきりであり、茶事の招待を受けることも…

山上の茶事(四)

鎌倉は山上に茶室を構える某数寄者の恒例の茶事、毎年初冬から春にかけて開かれるが、今年は諸事情から2ヶ月以上も早い9月21日に行うこととなった。懐石を依頼された当方は、近年9月に手がけた記憶がなく、一週間前から食材売り場を見て歩き、献立を決めたの…

よみがえる記憶〈大師会〉

朝から降り続ける雪。新成人たちにはあいにくの天候となった。ニュースの映像では、この日のために選んだ華やかな振袖に、冷たい雪が降りかかっている。 その光景に、ある日の出来事が思い出された。10年以上も前になるだろうか。茶の湯の恩師の計らいで根津…

花を届ける

大山蓮華が芳しい花を咲かせた。幾種かの花を添え、茶の湯の師に届けることにした。久しぶりに会った高齢の師の身体は、また一回り小さくなったように感じられた。師のもとを離れ、いつしか5年の歳月が経つ。今、師と私とをつなぐのは四季折々の花であった…

青森県産 天然ヒラメ

小田急新宿の地下食品店街に立ち寄る。時折、ここの鮮魚売場では天然魚のお買い得品が登場するのだ!さてこの日のお買得品は?・・・なになに?!青森県産天然ヒラメが二柵で1000円!信じられない!!大漁だったの?!何にせよ当家にとってはこの上のない幸…

新緑に薄茶一服

近年、ご縁をいただいた年長のお二人を招いて、薄茶を一服差し上げることになった。それぞれご友人をお一人伴われていらっしゃる。当日は晴天、場所は新緑も清々しい春風萬里荘「夢境庵」(茨城県笠間市)。裏千家の茶室「又隠」を手本に北大路魯山人(1883−…

茶会への招待 三井記念美術館

間隙を縫って訪れた三井記念美術館で「茶会への招待ー三井家の茶道具」を鑑る。毎々、三井家の財力と眼力の高さに脱帽する。折り目正しい来歴、保存状態、道具自ら堂々と構えて揺らぎが無い。唐物肩衝茶入「遅桜」や志野茶碗「卯花墻」(国宝)、黒楽茶碗「…

南京山水香合

手のひらに宇宙を乗せし夜半かな 敦煌 明末清初。開扇に山水松下囲碁図、側面には繊細な菱文様。江戸期はあるだろう杉材を使用した素朴な箱。表に「なんきん」と・・・ 側面の流れるような草書字はなんて読むンだろう? と考えていると、横にいた連れがニヤ…

墨宝 常盤山文庫名品展

根津美術館が華々しくリニューアルオープンしたのは2009年秋のことだ。美術番組や専門誌でも大きく取り上げられ、その喧騒が落ち着いてから訪ねようと思っていたのだが、いつのまにか1年以上が経ってしまっていた。しかし、ままならないものである。本日は庭…

睦月の道楽(2011)

1月1日早朝の恒例、実家2階の東側の窓から初日の出を拝む。今年一年、皆が無事で過ごせますように。大晦日の夜までかけて仕上げた御節料理に御屠蘇と雑煮。元旦の朝、家族で正月の膳を囲むと何故か晴れ晴れとした心地になる。書院床には恵比寿の軸、鏡餅、南…

香箱蟹を食べる

先日の鎌倉の茶事に差し入れをいただいた料理屋「ろばた(呂者堂)」を訪ねる。店内には大きな囲炉裏のテーブルがあり、それを囲んで10脚ほどの椅子が並ぶ。炉内には備長炭が赤々と燃え、自在に鉄瓶がかかっている。東京銀座に存在するふるさとといった風情…

山上の茶事(参)

師走 茶懐石献立 鎌倉は山上の茶事。正客は室町より続く名家の当主、連客は5人。紅葉いまだ残る木立の下、客は息を切らせつつ石段を上がり、茶室に到着したものだ。さて、その頃水屋では、懐石担当の当方、最期の仕上げに必死になっている。亭主所蔵の古陶磁…

一汁三菜の心がけ

旬のもの、食べたいものは飽きるまで毎日でも、という人も多い。そこで思い当たる当方、朝食を主に、一週間の食生活を検証してみた。一汁三菜を心がけている朝食。今週は半月前まで主菜の座に君臨していた焼魚が姿を消している。雪もちらつく寒い日が続いた…

花のみちびき

陽気に誘われ、長谷寺への道を歩く。寺の門をくぐると、紅白の梅が満開であった。明日から2月、鎌倉はすっかり春の装いだ。うららかな陽射しに福寿草も咲き出した。寄り添うように咲く姿が愛らしい。高徳院の大仏に参拝したのち、折りよく来たバスに飛び乗り…

睦月の道楽

早いもので2010年の1月も終わり。瞬く間に過ぎ行く月日を実感する。さて今月、特筆すべきことは…。8日午後、釜をかけていると案内のあった老舗古美術商を訪ねる。柿色無地の着物に、プラチナ地に大きな鱗文様の袋帯、帯揚げ帯締めは若草色と、正月気分さめや…

正月の宴

正月3日、例年のごとく茶友を招いた。前日に道具を組み花を決めると、すっかり安心してしまい、当日は刻限間際になってあたふたする始末。客の到着30分前にようよう着物に着替えたものだ。客は茶の湯を楽しみながらも真面目に取り組んでいる6名。こちらはこ…

山上の茶事(弐)

11月末の土曜、鎌倉は某数寄者宅で茶事が開かれた。山上にある茶室周りのモミジの色づきはまだ浅いが、そこかしこの広葉樹は賑やかに色づいている。亭主と客の5人はいずれも男性。席入りは12時半、懐石ののち中立ちがあり、続く後座は濃茶、後炭、薄茶の流れ…

美味い店 立原

久しぶりに立原へ行く。古備前徳利を携えて、立原さんと盃を交わそうという連れであったが、残念ながら朝からの雨に断念。美術品の運搬は、傘で手のふさがる雨の日はさけたいものだ。しかし石盃だけは忘れずに、気に入りの斑唐津と黄瀬戸六角を持ち込んだ。…

法事の献立

妹の嫁ぎ先の舅が逝去して3年が経った。優しい、そして照れるような舅の笑顔を思い出す。妹から、舅の3回忌の法事を自宅で行うことにしたと電話があったのは、一月ほども前のことだ。客を手料理でもてなしたい、ついては手伝ってはくれまいかと言う。舅は妹…