古美術

新緑に薄茶一服

近年、ご縁をいただいた年長のお二人を招いて、薄茶を一服差し上げることになった。それぞれご友人をお一人伴われていらっしゃる。当日は晴天、場所は新緑も清々しい春風萬里荘「夢境庵」(茨城県笠間市)。裏千家の茶室「又隠」を手本に北大路魯山人(1883−…

茶会への招待 三井記念美術館

間隙を縫って訪れた三井記念美術館で「茶会への招待ー三井家の茶道具」を鑑る。毎々、三井家の財力と眼力の高さに脱帽する。折り目正しい来歴、保存状態、道具自ら堂々と構えて揺らぎが無い。唐物肩衝茶入「遅桜」や志野茶碗「卯花墻」(国宝)、黒楽茶碗「…

苦手料理

午後7時半、吉兆での夕食、これだけは天候に関係なく予定通りだ。連れは古唐津と粉引双耳盃、ジョッキ代わりに織部松皮菱筒向を携えてきていた。入り口で馴染みのマネージャーと軽口を交わし、席に着いてすぐにビールを頼んだ。今回はいつものように山行後の…

松尾大社

京都最古の神社として知られる松尾大社。洛西総氏神とともに醸造祖神が祭られている。神輿庫の軒下には、全国の酒造家から奉献された酒樽が5段重ねにびっしりと並び、なかなか壮観であった。またこの神社には、昭和を代表する作庭家の一人、重森三玲の庭(昭…

東寺

4月2日、余震の続く関東から京都に旅立った。新幹線の車窓からは変わらず雄々しい富士が見える。映り往く景色…木々の芽木灯が春本番を予見する。早足の連れとともに、京都駅から東寺への道を黙々と歩く。立体曼荼羅に諸尊が配置された東寺の講堂。国宝指定の…

『冬のかたみに』立原正秋

「立原」が2月いっぱいで休業すると聞いたのは、昨年師走のことである。私たちは驚き、絶句したものだ。「私の料理は古いのかもしれない」 立原氏のつぶやきが耳に残る。果たして、素材の美味さを最大限に引き出す料理は、刺激的な味覚を求めがちな現代人に…

帰ってきた江戸絵画 ギッター・コレクション展 静岡県立美術館

2月11日雪のちらつく朝、静岡に所要があるという連れに同行し、東京駅から新幹線に乗り込んだ。積雪の恐れ、との天気予報であったが、「静岡はめったに雪は降らないさ!」と言うMの言葉どおり、熱海を通過する頃には雪は雨にかわっていた。連れとは午後3時…

南京山水香合

手のひらに宇宙を乗せし夜半かな 敦煌 明末清初。開扇に山水松下囲碁図、側面には繊細な菱文様。江戸期はあるだろう杉材を使用した素朴な箱。表に「なんきん」と・・・ 側面の流れるような草書字はなんて読むンだろう? と考えていると、横にいた連れがニヤ…

墨宝 常盤山文庫名品展

根津美術館が華々しくリニューアルオープンしたのは2009年秋のことだ。美術番組や専門誌でも大きく取り上げられ、その喧騒が落ち着いてから訪ねようと思っていたのだが、いつのまにか1年以上が経ってしまっていた。しかし、ままならないものである。本日は庭…

古染付松竹梅皿

大寒を迎え、鍋がますます美味い季節となった。本日(22日)はゆるりと牡蠣鍋といこう。具材は牡蠣、鱈、春菊、白滝、焼き豆腐。出汁は昆布でとる。薄口醤油とみりん、酒で薄味をつけ、仕上げに大根下ろし。鍋の中は、春菊の緑が彩るだけのシンプルなものだ…

睦月の道楽(2011)

1月1日早朝の恒例、実家2階の東側の窓から初日の出を拝む。今年一年、皆が無事で過ごせますように。大晦日の夜までかけて仕上げた御節料理に御屠蘇と雑煮。元旦の朝、家族で正月の膳を囲むと何故か晴れ晴れとした心地になる。書院床には恵比寿の軸、鏡餅、南…

象嵌の花

花冷えが続き、桜花命を長らえている。今宵は寿司屋で一献。早く出でる可し!との連れの誘いに、いそいそ現地にいってみればそこは長蛇の列。安くて美味いと評判の○○○寿司のこと、さして驚きもしないのだが、さて当の本人は何処かと探してみれば、植木囲いの…

鎌倉彫重箱

東京の桜もついに開花した。鎌倉彫の二段重箱に弁当を用意していたが、思わぬ寒さに花見を断念。そこで江戸末期の絵師による「月下に山桜」の軸を掛け、屋内花見と洒落込んだ。口切の菜は筍、蕗の炊き合わせだ。春の香りに酒もすすんだものである。

花のみちびき

陽気に誘われ、長谷寺への道を歩く。寺の門をくぐると、紅白の梅が満開であった。明日から2月、鎌倉はすっかり春の装いだ。うららかな陽射しに福寿草も咲き出した。寄り添うように咲く姿が愛らしい。高徳院の大仏に参拝したのち、折りよく来たバスに飛び乗り…

睦月の道楽

早いもので2010年の1月も終わり。瞬く間に過ぎ行く月日を実感する。さて今月、特筆すべきことは…。8日午後、釜をかけていると案内のあった老舗古美術商を訪ねる。柿色無地の着物に、プラチナ地に大きな鱗文様の袋帯、帯揚げ帯締めは若草色と、正月気分さめや…

誕生日を祝う

日本橋「八ツ花」で連れの誕生日を祝う。「八ツ花」は連れ気に入りの店で美味い天麩羅を食べさせてくれる。師走も半ば、忘年会も多いのだろう、不況の時勢ながらこの店は常連客で賑わっている。突き出しの烏賊の塩辛は絶品であった。寒くなるほど烏賊は美味…

山上の茶事(弐)

11月末の土曜、鎌倉は某数寄者宅で茶事が開かれた。山上にある茶室周りのモミジの色づきはまだ浅いが、そこかしこの広葉樹は賑やかに色づいている。亭主と客の5人はいずれも男性。席入りは12時半、懐石ののち中立ちがあり、続く後座は濃茶、後炭、薄茶の流れ…

海蔵寺

日本庭園の図面を見るのも、名園を訪れるのも好きだ。自宅の庭で、土にまみれて樹木を動かすのはもっと好きである。さて、先の土曜(7日)朝から鎌倉を歩く。天候にも恵まれ、鎌倉に古くから続く大きな家々とそれらをやんわりと囲み込むような独特の低い山並…

美味い店 立原

久しぶりに立原へ行く。古備前徳利を携えて、立原さんと盃を交わそうという連れであったが、残念ながら朝からの雨に断念。美術品の運搬は、傘で手のふさがる雨の日はさけたいものだ。しかし石盃だけは忘れずに、気に入りの斑唐津と黄瀬戸六角を持ち込んだ。…

蒔絵盆

ある店に南北朝様式の蒔絵盆があるが興味があるか、と知人から電話が入った。茶事懐石を手掛けるあなたなら、如何様にも使えるだろう、と声の主。時代は幕末ほどもあろうか。5枚組の盆は小振りで、銀彩の縁取りと南天の意匠があった。金、銀の粉溜を施した絵…

M氏、麻婆豆腐を作る

久しぶりに渡欧、8つの夜を超えてようよう帰国した。さて、成田まで出迎えに来てくれたM氏、到着時間に遅れが出、1時間半も到着ロビーで待ちぼうけをくった。 「何度も係の人に場所と時間を確認してさッ、出てくる人を目で追ってたら、雪目ならぬ人目にな…

朝茶事

最期に茶の湯の師を訪ねてから、かれこれ半年以上も経つだろうか。ここ2年ほど茶事もおろそかにし、点前座にすわることも稀となった。自転車と同じ、点前作法は身体が覚えているものと勝手に思い込んでいたが、先般、袱紗を手にとり、これまでにない違和感…

美味い店 八ツ花

「八ツ花の天麩羅が食べたいなあ」と、連れの口から時折こぼれる言葉。美味いものに舌鼓を打ちたいのは、こちらも同様。この店の天麩羅はかりっと揚がり、素材そのものを味わえる。暑さも一段落の夕刻7時過ぎ、日本橋八ツ花ののれんをくぐる。連れはすでに…

夏の味わい 立原

「え、おまえ、驕ってくれるの?じゃ、立原さん、電話してみよっか」 と、連れは間髪入れずに立原に予約。約束の7時、連れはすでにカウンターに陣取り、ビールを美味そうに飲んでいる。横に並んで相伴すると、一気に蒸し暑さから開放された。口取りは夏野菜…

青森産イタヤ貝 絵唐津向付

青森産イタヤ貝を丸赤にて求める。本日は貝柱を刺身に、ヒモを酢味噌和えにこしらえた。酢味噌は、白味噌8、赤だし2の割合で、酒、砂糖とともに火にかけ、濃厚に練り上げる。我ながら、良い出来だ。季節はずれではあるが香りのある春菊をヒモと和え、この…

鎌倉・箱根を旅する

夕刻、鎌倉の料理屋「まき」ののれんをくぐる。連れは、茶懐石にも明るいこの店の主人とは馴染みで、前々から私を連れて行きたいと言っていたのだった。入れ替わりに一組の男女が帰ると、店内に客の姿はなかった。雨脚が強いためか、その後の客入りもなく、…

鯛の白子

銀座あさみにて会食。近日に思いついての予約はなかなか取れず、この店に行くのは久しぶりだったが、茶懐石をも踏まえた主人の真面目な仕事振りは変わらずだ。本日は味にうるさい数寄者と茶道具商との会食であり、出される料理について二人の評価を聞いてい…

昆布〆の鯛

鯛を昆布〆にする場合、淡白なヒラメより〆る時間を長くし、また適量の重しを乗せることにしている。鯛独特の癖、臭みを抜くためであるが、これは極めて私的な好みであり、個人の嗜好により〆方は変わってこよう。鼠志野の向付に盛りつけてみた。この向う、…

春雷 立原にて

立原にて春を食す。連れは予約の時間より20分ほど早く到着し、店の主人立原氏と昔話に花を咲かせていたようだ。今夜の客は我々だけあり、立原氏との話もはずんだ。恵比寿の店を閉めてから早や10年になるという。当時、この店の閉店を知らなかった我々は、予…

春の酒宴

「赤貝のぬたが食べたいものだ、向うは天然のヒラメがいい」 「美味しいヒラメがあるといいね」 幸いに長崎産の天然ものが手に入り、ヒラメを主役に昼下がりの宴となった。絵志野向付に盛る。草花が大胆に描かれており、返しのある縁の意匠とともに、桃山時…