懐石

法事の献立

妹の嫁ぎ先の舅が逝去して3年が経った。優しい、そして照れるような舅の笑顔を思い出す。妹から、舅の3回忌の法事を自宅で行うことにしたと電話があったのは、一月ほども前のことだ。客を手料理でもてなしたい、ついては手伝ってはくれまいかと言う。舅は妹…

美味い店 季節料理 まき

金曜の夕刻、横須賀線で向かうは、鎌倉の料理屋「まき」。久しぶりで味わう「まき」の料理に、日中からいそいそとしたものだ。のれんをくぐれば、主人の笑顔が迎えてくれた。 一足先に到着した連れはカウンターの中ほどに陣取り、早やビールを開けている。突…

蒔絵盆

ある店に南北朝様式の蒔絵盆があるが興味があるか、と知人から電話が入った。茶事懐石を手掛けるあなたなら、如何様にも使えるだろう、と声の主。時代は幕末ほどもあろうか。5枚組の盆は小振りで、銀彩の縁取りと南天の意匠があった。金、銀の粉溜を施した絵…

M氏、麻婆豆腐を作る

久しぶりに渡欧、8つの夜を超えてようよう帰国した。さて、成田まで出迎えに来てくれたM氏、到着時間に遅れが出、1時間半も到着ロビーで待ちぼうけをくった。 「何度も係の人に場所と時間を確認してさッ、出てくる人を目で追ってたら、雪目ならぬ人目にな…

大糸線にて笑う

祖母谷温泉での早朝の目覚め…昨夜からぐっすりと眠り、気分がいい。連れを起こし、内風呂に向かう。かけながしの湯は、同時に水がそそがれており、ぬるめの温度になっている。露天も良いが、大きな石の湯船のあるこの内風呂は、秘湯の趣きがあり、なかなか良…

朝茶事

最期に茶の湯の師を訪ねてから、かれこれ半年以上も経つだろうか。ここ2年ほど茶事もおろそかにし、点前座にすわることも稀となった。自転車と同じ、点前作法は身体が覚えているものと勝手に思い込んでいたが、先般、袱紗を手にとり、これまでにない違和感…

江戸前鮨

銀座界隈、旨い鮨屋が何軒もあるが、このところの我々の気に入りは、S駅近くの鮨屋である。先日、老舗古美術商から治兵衛の朱盃を手に入れ、今晩は旨い鮨で乾杯というわけだ。鮨屋には7時に予約を入れてはいたが、到着したのは、20分ほども回っていたか。ま…

夏の味わい 立原

「え、おまえ、驕ってくれるの?じゃ、立原さん、電話してみよっか」 と、連れは間髪入れずに立原に予約。約束の7時、連れはすでにカウンターに陣取り、ビールを美味そうに飲んでいる。横に並んで相伴すると、一気に蒸し暑さから開放された。口取りは夏野菜…

青森産イタヤ貝 絵唐津向付

青森産イタヤ貝を丸赤にて求める。本日は貝柱を刺身に、ヒモを酢味噌和えにこしらえた。酢味噌は、白味噌8、赤だし2の割合で、酒、砂糖とともに火にかけ、濃厚に練り上げる。我ながら、良い出来だ。季節はずれではあるが香りのある春菊をヒモと和え、この…

美味いもの

「ぬたが食べたい、ぬたが食べたい。この季節、ぬたがなくては始まらないんだ」 「はいはい、さようで。それでは、丸赤を覗いてまいりましょう」逸品が並んだ丸赤の店頭で、つやつやと美しい青柳舌切に目をとめた。「その青柳をくださいな」 すると丸赤の目…

鎌倉・箱根を旅する

夕刻、鎌倉の料理屋「まき」ののれんをくぐる。連れは、茶懐石にも明るいこの店の主人とは馴染みで、前々から私を連れて行きたいと言っていたのだった。入れ替わりに一組の男女が帰ると、店内に客の姿はなかった。雨脚が強いためか、その後の客入りもなく、…

鯛の白子

銀座あさみにて会食。近日に思いついての予約はなかなか取れず、この店に行くのは久しぶりだったが、茶懐石をも踏まえた主人の真面目な仕事振りは変わらずだ。本日は味にうるさい数寄者と茶道具商との会食であり、出される料理について二人の評価を聞いてい…

昆布〆の鯛

鯛を昆布〆にする場合、淡白なヒラメより〆る時間を長くし、また適量の重しを乗せることにしている。鯛独特の癖、臭みを抜くためであるが、これは極めて私的な好みであり、個人の嗜好により〆方は変わってこよう。鼠志野の向付に盛りつけてみた。この向う、…

花見弁当

桜も七、八分咲きとなり、花見に出かけることにした。鼻歌まじりで弁当を作る。重箱に筑前煮、出汁巻卵、焼き目をつけた薩摩揚などを詰め、椀型の点心弁当には筍御飯と和え物、香の物を盛りつけた。行楽弁当は作っているだけで不思議とワクワクする。徳利は…

春雷 立原にて

立原にて春を食す。連れは予約の時間より20分ほど早く到着し、店の主人立原氏と昔話に花を咲かせていたようだ。今夜の客は我々だけあり、立原氏との話もはずんだ。恵比寿の店を閉めてから早や10年になるという。当時、この店の閉店を知らなかった我々は、予…

春の酒宴

「赤貝のぬたが食べたいものだ、向うは天然のヒラメがいい」 「美味しいヒラメがあるといいね」 幸いに長崎産の天然ものが手に入り、ヒラメを主役に昼下がりの宴となった。絵志野向付に盛る。草花が大胆に描かれており、返しのある縁の意匠とともに、桃山時…

山上の茶事(壱)

ふた月ほども前のことになろうか、京都から来られる客人を茶席でもてなしたい、ついては懐石をお願いしたいのだが、と鎌倉住まいの某氏から依頼があった。このところ茶事から遠ざかっており自信がなかったものの、老舗茶道具商からもお一人手伝いに来られる…

七草粥

早いもので正月も7日である。無病息災を願い、朝食に七草粥を作る。近年は、スーパーでも七草のすべてを手に入れることが出来る。七草はよく洗い、2センチほどの長さに揃えきざむ。すずな(蕪)、すずしろ(大根)はアラレ切りに。米は昆布だしで40分ほどこ…

小紋の着物

正月5日、大伯母譲りの江戸小紋にはじめて袖を通す。新春には地味な紫地に白の小花紋だが、台所と食卓を行き来する身には丁度いい。ガラス重箱に盛り付けた料理も、すでに正月の華やかさは失せ、いつもの献立に戻りつつある。こんな料理にこそ、時節の移りを…

正月祝いの膳

正月3日、気のおけない茶友を招き、新年を祝う。毎年恒例、妹の誕生日祝いを兼ねた初釜代わりの新春の宴だ。本年は6名の客を迎え、夕刻6時半、開宴となった。例年献立は、茶懐石の流れを基本にしているが、前菜にはおせち料理を召し上がっていただいている。…

誕生日を祝う

旬菜料理「立原」で、Mの誕生日を祝う。厨房とフロアを慌しく行き来する店主の立原氏も足をとめ、乾杯となった。盃は、このところお気に入りの黄瀬戸六角、刷毛目、斑唐津である。今年還暦を迎えたという立原氏は、著名な小説家であった父の歳をいくつも越…

青森産天然平目

丸赤で、青森産の平目とスルメ烏賊を求めた。 (12/6)さてこの日の宴、序盤にサッポロラガー、エビスと2本の中瓶を空け、続いて広島は賀茂鶴へと攻め入った。平目は昆布〆にはせず、山葵、醤油で食したが、一人の酒呑みが語るには、 「この平目はしまりがな…

魯山人黄瀬戸角向付

牡蠣の美味い季節である。本日はかき尽くしの宴と相成った。牡蠣鍋に、まずはエビスの瓶ビール。ぷっくりとした熱々の牡蠣に、キリッと冷たいビールが美味い。北大路魯山人の黄瀬戸角向付。海鼠釉がでろりとかかり見どころの多い器である。茶懐石向うに、肴…

三島鉢「鯛塩焼き」

夏の終わりに、美味いそうめんが食べたいとの声に、週末恒例の酒宴を設けた。前日に丸赤をのぞき、鯛を求める。一塩したその切り身を焼き、酢橘をしぼる。素晴らしい素材が手に入った場合は、シンプルな調理法に勝るものはない。鉢形の器に盛り付けてみる。…

絵唐津向付「赤烏賊」

湯通しをした小振りの赤烏賊、その甘く柔らかい身に、少量の山葵を乗せて食す。桃山期の絵唐津に盛り付けてみた。往時、美濃の織部や志野、黄瀬戸、そして遠く唐津でも、画期的な意匠の懐石の器が盛んに作られている。特に絵唐津は人気を博した。この器から…

堅手徳利

小振りの堅手徳利。高台周りの貫入がいいんだよ、わかるかなあ、と徳利の腰を撫でながら、熱く語る酒呑み一人。ハイハイ、左様で、ごもっとも、いいもんですなあ、それではワタクシメはお相伴…酒を注げば、トクトクと小気味の良い音がする。傍らに、幾つかの…

古染付漢詩文皿「トリ貝」

古陶磁に肴を盛り、杯を傾けながら、じっくりと旬の食材を味わう。週末恒例の楽しみである。今週末は何を食そうかと、週の半ば、早くも丸赤の店頭に侍る。木曜には美しい甘鯛が横たわり買い物客を魅了していたが、残念ながら、本日(6/20)の仕入れはなかっ…

阿吽 李朝白磁鉢「鮎」

ゴールデンウィークを目前に、あれやこれやとその過ごし方を計画する、今が一番楽しい時期であろうか。連休後半に山行の予定である。本日(27日)は打ち合わせを兼ね、昼食会の運びとなった。さて、いそいそと丸赤に買物に出かけた。早や店頭には鮎が並んで…

魯山人「黄瀬戸角向」

駅構内を矢のように走る男を見た。階上のホームにはすでに電車が到着しており、急な階段を駆け上らなければならないのだった。黄瀬戸角向付。自由闊達で剛直、潔癖な一姿である。黄瀬戸釉の濃淡に変化があり、見込、裾回りには黄瀬戸独特の海鼠釉の窯変が見…

春宵

窯内の火回りにより、赤くまた紫黒く焼成された備前徳利は、桃山素焼きの伝統を十分に堪能出来る。花入れにも転用されるほどの大きさで、茶懐石の預け徳利に最適と言えよう。口辺に幾重にも刻まれた筋目は、ウィスキーの瓶の口を思わせるが、南蛮の影響か…。…